アメリカで1967年に創刊されたローリングストーン誌は音楽や政治をテーマに今もって一定の影響力を保持している雑誌の一つです。そのローリングストーン誌が「史上最高のアルバム500枚」を8年ぶりに大改訂したというニュースが一部で盛り上がっています。
これまでの1位はザ・ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』だったのですが、今回1位に選ばれたのはマーヴィン・ゲイの『What’s Going On』(前回は第6位)、また全体的に黒人アーティストと女性アーティストの数が増えているという特徴があったようです。
いうまでもなくアメリカを中心として巻き起こっているBLM運動が選考に影響したのでしょう。
ただ、今回あらためてアルバムタイトルとなっているこの曲の歌詞を読んでみると、選考の正しさ(そのようなものがあるとして)を感じさせられました。この曲自身は、ベトナム戦争や学生運動・公害問題などを背景に1971年に生まれた曲ですが、現代の病めるアメリカに当てはめても何一つ色褪せないメッセージを内包しています。
英語の歌詞を多くの人が翻訳していますが、こなれた訳としてKeiの訳詞をここに引用します。
マリア様
悲しいことが多すぎる
兄弟たちが何人死んでいくんだろう
だから今ここで愛し合える道を見つけよう
主よもうたくさんだ
争うことは答えじゃない
愛だけが憎しみを超える
だから今ここで分かり合える道を見つけよう
ピケを貼って僕らを見張って
乱暴なことをしないでくれ
話せばわかるだろう
どうなっているのか話してくれ
母さん僕たちが間違っているというけれど
誰がそんなふうに決めるんだ
髪が長いというだけで
だから今ここで分かり合える道を見つけよう
ピケを貼って僕らを見張って
乱暴なことをしないでくれ
話せばわかるだろう
どうなっているのか話してくれ
https://youtu.be/qm0RvJYEktM
この訳は、冒頭のMother,Motherの部分をマリア様と訳すというかなり思い切ったことをしています。(同様にFather,Fatherを主よと訳している)
それはいいとして、どうですか、現代において最高のアルバムとして選ばれた理由がわかる気がしませんか?
昨年、この曲の公式ミュージックビデオが公開されました。(1971年当時にミュージックビデオはありませんでしたから)
これです。
いきなりこのビデオを見ても分かりにくいのですが、映像には米フリント市での水道水汚染問題や学校での銃乱射事件、警察による暴力行為などが映し出されています。
音楽の話なのに明るい話題とはなりませんね。でも、社会を見つめるきっかけを音楽が与えてくれることがあります。半世紀という時間を隔ててもなお現代的であり続ける音楽の力、というよりも、半世紀たっても何ひとつ変わっていないこの社会の現実というべきでしょうか。
ちなみにマーヴィン・ゲイは1984年に亡くなっています。父親に拳銃で撃たれたのです。