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読書週間:むかし恵比寿にあった古本屋の話

読書週間です。
むかし恵比寿にあった古本屋の思い出をひとつ。

JR山手線の恵比寿駅を西口に出ると駒沢通りにぶつかります。そこで信号を待つとき、今だったらスマホの画面を見ていて気づかなかったでしょうが、15年も前ですと通りを渡ったところに小さな古書店があることに誰もが気づいたものでした。なぜなら、縦に細長いビルの窓には4、5メートルはありそうな長い半紙が吊り下げられていて、そこには、決して達筆とはいえない筆文字で、何かしら店主の叫びのような詩句が、たいていは三行の分かち書きで書かれていたからです。その叫びとも警句とも予言とも取れるような詩句は、恵比寿を訪れるたびに書き換えられていて、駒沢通りを渡るときの楽しみになっていたものでした。

例えばこんな詩句がありました。

毒ニモ薬ニモナラナヰ
本ヲ読ムヨリ毒カ薬ニナル
本ヲ読ミマセウ

今の児も昔しの児も
ずっと昔しの児の書いた
本も読みませう

本を目で齧(かじ)り
本を頭で咀嚼し
こころの糧と為す

超高速の電脳社會
短絡したら無能社会
端からゆっくりでは

古書店の主らしい力強い言葉ではありませんか! 時に複雑にねじれた文法で書かれたことばは妙な説得力を持って迫ってきます。
私の一番のお気に入りを紹介しましょう。

どうですか? 何か、教育の、というか躾のというか、愛情というか、とても大切なものをズバリ表現してるようではありませんか? この詩句は忘れることができません。「倅(せがれ)読め」のところは、厳しい命令口調で読むこともできますが、「このカラマーゾフの兄弟、ロシアのドストエフスキーって人が書いたらしいんだが面白かったぞ、ちょっと長いけど、お父さんはもう読んでしまったから、お前にやろう。読んでみろ」という感じにも読めますね。

さてさて読書週間。スマホを横にどけて、とびきりの一冊を手に素敵な時間を過ごしませう。

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