(承前)
息子の学校選択に猛反対の父親は家族会議を開き、考えを変えさせようとします。それに先立ち、父親は20項目以上の危惧と質問を投げかける文書を息子に手渡しました。
例えば
「ゲームもできない規律の厳しい環境の中でやっていけるという根拠は?」
「あえて集団生活を選ぶ理由は?」
「もし自分に合わないと分かった時どうするつもりか?」
「他人の使ったタオルを使えない君が他人の作ったご飯を食べられるのか」
「人間社会から隔絶された少人数の環境で、社会に出たあと苦しむことになる」といった感じです。
それに対して息子は家族会議の場で文書で反論を試みます。簡単に要約すると
”父さんの心配する気持ちも分かるが、自分は集団生活をすることにそれほど心配はしていない。自由がないというけれど、そんなことはない、休みの日は許可をもらって外出もできる。父さんは学校のことを父さんの価値観でしか見ていないと思う。自分はこの学校で自律心を鍛えて強い人間になろうと考えている。二人で同じ部屋で寝られるのかと父さんは言うが、逆に、なぜひとりで寝なければならないのか。将来についても、この学校の卒業生は大学や専門学校、就職など自分にあった選択をしており、自分もそうできるように頑張るつもりだ”
家族会議の結末がどうなったかは、とりあえず横に置いておきましょう。
この話を聞いて私が思ったことがいくつかあります。
①父親と面と向かって自分の意見を語れなくとも、実際はいろいろ考えている
②ゲームばかりしているが、そんな自分を変えたいという思いも一方で持っている
③自分の思いを紙に文字で書き記すと意外にも雄弁だ
この息子のように、自分の意志を父親にぶつけてくるような子どもは実際には少ないと思います。「いったいこの子は何を考えているのかわからない」と親に言わせる子どもの方が多いのです。でもほとんどの場合、考えていないのではなく、考えたり感じたりしていることをうまく表現できないだけなのです。子ども自身の性格によることもあるでしょうが、15年間の子どもとの対話の蓄積、その質が問われているように私には思えます。
この父親がぎこちなくも、箇条書きの文書(=手紙)を渡したのは、意図はどうあれ、良いアイデアだったと思います。おかげで息子の方も冷静に時間をかけて自分の思いを見つめ考えをまとめたでしょうから。これが面と向かった状況ではなかなかうまくいかないのです。
お子様とのコミュニケーションにお困りの方は、子どもとの手紙を通じてのやりとりという方法を使ってみるのも手かもしれません。